レガシー企業が抱える、3つの「共通の問題」
西井 私もこれまで、いろいろな企業を見てきましたが、うまくいっていないのに、なぜか古い習慣や昔からの方法をずっと押し通しているところがたくさんありました。そこには、組織の問題があると思うのですが、マーケティングという視点に限らず、西口さんはどう考えていますか。
西口 それなりに大きなレガシー企業は、3つの問題を抱えていると思っています。ひとつ目は、大きな意思決定を行う経営陣がデジタル世界をほぼ知らないため、現場に丸投げしていることです。
これまでの「物理世界(旧リアル)」と、スマートフォンの登場で生まれた「デジタル世界(新リアル)」は、勝手が全く違います。それにもかかわらず、企業の幹部はデジタル世界の基礎的な知識も、ダイナミクスも理解していないことが多いです。
例えば、もし陸軍のトップが海軍を指揮することになったら、戦車と戦艦の特性も違えば、陸上戦と海上戦の物理的な制約条件も違うため、「俺は陸軍のことしか分からないから、海軍のことは現場に任せた」となるでしょう。しかし、陸軍の現場も海軍のことがよく分からないため、実際は大混乱に陥ってしまいます。これと同じことが、ビジネスでも起きているのです。
2つ目の問題は、すでにいろいろなシーンで語られていますが、組織のヒエラルキーが影響しています。大きな会社は、ひとりに権限が集中しないようリスク分散を目的にして稟議という仕組みをつくり、上長が承認して、さらにその上長が承認して、ということを予算額に応じて行います。
この仕組みがしっかりできているがゆえに、社内をどう通すか、そのために稟議書をどう整えるか、ということばかりに意識が向いています。そのときに、お客さまにどんな価値をつくるかが議題になることは、ほぼないでしょう。
そして3つ目に、悪気はなく、若者を台無しにしてしまう仕組みができていることです。いま多くの大企業で部長や課長を含めて幹部になっている人は、いわゆる昭和と平成前半の成功体験を持った人です。その人たちが活躍した時代のお客さまは、いまほどデジタルの影響を受けていません。
ところが、平成後半から令和、特に現在の10代や20代は、デジタルを中心にものごとを考えています。それなのに、幹部はそうした若い世代に対して、自分たちが信じて成功したことや失敗したことを真面目に伝えています。
すると若い世代は、本来はデジタル世代にもかかわらず、どんどん昭和の感覚を身に付けていくんです。つまり、若い世代が真面目に話を聞けば聞くほど、時代から離れていくという構造です。特に、社内のトレーニングや部下育成を重視している大企業ほど、若い世代を昔の世代に寄せていってしまうんですよね。
「Co-Learning(コラーニング)」は、スマートフォンアプリの名称として継続して使用いたします。